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妖精が消えた小さな国

120年前の4月、あるアメリカ人が横浜に着く。

朝の大気は彼の瞳のようにやや青味を帯びて澄み渡り、
西の山並みのはるか上空に、富士山頂を見た。

頂だけが夢のように目に映る。

彼の名は、ラフカディオ・ハーン。

ハーンは初めての日本の町に人力車で繰り出した。

青い屋根の下の家も小さく、
青いのれんを下げた店も小さく、
青い着物を着て笑っている人々も小さい。

目の届く限り、幟がはためき、
濃紺ののれんが揺れていた。

新聞社の契約記者だったハーンは、
「小さな妖精の国」に感嘆し、詳しいルポを本国に送る。

みずみずしい感動に溢れた彼の言葉は、
のちに「神々の国の首都」として出版されるだろう。

旧い日本と新しい日本が交錯する。

ハーンが来日した明治23年の日本。

横浜には外国人が増え、丸の内では帝国ホテルが開業。
東京・横浜で電話交換業務が開始され、
前年公布された大日本帝国憲法に基づく衆議院初の総選挙があった。

今年はハーンの生誕160年、
来日120年という区切りの良い年だ。

人々の日常生活の中に分け入って、
深くその心を汲みとろうとすること。

それがハーンの神の国に対する敬虔な気持ちであったのだ。

ハーンが今の日本を見たらどう思うのだろう。

開発され尽くし、
精霊の好む自然や美しい闇が消え、
人心が荒廃したかのような世相。

今の日本には神どころか、
妖精さえ棲めないのだ。

「妖精」が消えてしまったかのようなこの国、
ただの「小さな国」のまま終わってしまうのだろうか。



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by tsunagunpo | 2010-04-02 17:23 | こまいズム