村上春樹が告げるもの

ここは見世物の世界
何から何までつくりもの
でも私を信じてくれたなら
すべてが本物になる

村上春樹の「1Q84 BOOK3」は、
BOOK1、BOOK2に続く、とりあえずの完結編だ。

とりあえずと書いたのは、
未だに謎が謎として物語に寄り添っているからに他ならない。

1984年がいつのまにか1Q84年という
不思議な世界にねじれこむ。

そこに迷い込んでしまった川奈天吾と青豆雅美は、
20年の歳月を超えて互いを求めあい、そこから共に脱出する。

BOOK2で登場した牛河という得体の知れない男が、
青豆と天吾に異常接近し、三つ巴のドラマツルギーを紡ぐ。

BOOK3には現実の過酷さがじわりと読者にのし掛かる。

青豆と天吾の道行きはロマンチックだ。

しかし2人を取り巻く環境はあまりにも激烈で、
針で刺したら赤い血が出てくる現実の痛みだ。

威圧的な執拗さで集金人として働いた天吾の父、
粘り強さを唯一の取り柄とした牛河。

どちらも哀れな最期ゆえに人生の虚しさが強調される。

影がはっきりと描きこまれ、
青豆たちの希望の光が一層輝く。

強く想うことがリアルを生むという発想は、
この完結編でも変わらない。

だが、厳しい現実を前にして、
もはや恋慕のような想いではリアルは生まれない。

人生を賭して強烈に信じる力が必要なのだ。

強く信じることで現実が生まれること。

村上春樹は、もはや意思が新たな世界を生み出さない、
21世紀の日本を、その小説の力で凌駕し、
力を持たない我々に「続くのだ」と告げるのである。

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by tsunagunpo | 2010-05-22 16:45 | こまいズム