J・エドガー

誰よりも恐れられ、誰よりも崇められた男。

クリント・イーストウッドの「J・エドガー」は、
1924年、FBIの前身である捜査局BOIの長官に任命され、
35年にFBIへと改名した後も、72年に他界するまで、
長官として在任した権力者の半生を描く叙事詩だ。

エドガー・フーバーFBI長官はクーリッジからニクソンまで、
8代の大統領の元で捜査機関トップの座を50年に渡り守り続けた。

ケネディをはじめ、フーバーを更迭しようと考えた大統領もいたが、
結局は誰も実行できなかった。フーバーは密かに著名人の醜聞を収集し、
それを使って大統領を脅していたとさえ言われる。

大統領をも恐れさせた、アメリカ最大の権力者だった。

クリント・イーストウッドが描くフーバーは、
アメリカ史の闇を握る怪人などではない。

彼は必死に自分を保とうと苦闘する弱い男だ。

司法省捜査局(FBIの前身)に入局すると、
いち早く科学捜査の重要性を認識し、
リンドバーグ子息誘拐事件で名をあげる。

功名を追い求めるフーバーは、
ギャングやマフィアが逮捕されるたびに、
FBIが果たした役割を喧伝した。

マスコミに率先して協力し、
清廉潔白で悪を退治するFBIのイメージを作っていく。

イメージによって権力をつかんだフーバーは、
みずからのイメージにもことさらに気をくばった。

心の中で渦巻いている感情も、
背広とネクタイに封じ込めて決して表には出さない。

その思いは、副長官クライド・トルソンが入局してきたときからはじまる。
フーバーはトルソンにホモセクシャルの愛情を抱いてしまうのだ。

それは他人には、自分にさえも決して認められない愛である。

フーバーはホモセクシャルであることを隠しながら、
トルソンと一緒に食事をとり、休日には2人で競馬を楽しみ、
40年以上にわたって秘やかな交情を続けるのだ。

これは秘やかな愛のドラマである。

2人の出会いと別れは慎みぶかく、
ハンカチの受け渡しで表現される。

イーストウッドは現代では難しい大時代なメロドラマを語ってみせる。

2人は最後まで手を握りあうことすらできなかった。

この報われぬラブストーリーで、
アメリカ最大の権力者は実は敗者として描かれるのだ。

現実世界で、強面の裏に焦りと弱さを覗かせる権力者の姿を、
我々はこれからも目撃し続けなければならないだろう。

しかしそこには、静謐な美しい激情は存在しないのである。




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by TsunaguNPO | 2012-06-03 21:10 | こまいズム