ニーチェの馬
禍々しく密やかな世界の終末。
ハンガリーの鬼才タル・ベーラの
「ニーチェの馬」は寒村に住む貧しい父娘と、
疲れ果てた馬の最期の6日間を描く映像詩である。
1889年、イタリア・トリノ。
ムチに打たれ疲弊した馬車馬を目にしたニーチェは、
馬に駆け寄ると卒倒し、そのまま精神が崩壊した。
馬の持ち主である貧しい父娘は、
寡黙に単調な毎日を生きていた。
そして質素な石造りの家の外では、
いつ止むとも知れぬ激しい風が吹き荒れていた。
我々はその設定から、
ヴィクトル・シェストレムによる1928年公開の無声映画、
リリアン・ギッシュ主演の「風」を否応なく想起するだろう。
この作品で絶え間なく吹き荒れる強風は、
父娘に襲いかかる暴力としての装置だ。
起床、着替え、ジャガイモひとつきりの食事、
馬の世話、井戸への水汲み、そして就寝。
これらを繰り返すだけの生活が、
過去からいつまでも続いているような長いカットで反復される。
その反復は人間の存在の意味をあぶり出す。
黙示録は業火で焼かれるばかりではない。
本当の終末は死に近い沈黙、
静謐な孤独をもって終わっていくのだ。
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by TsunaguNPO | 2012-11-05 14:26 | こまいズム