色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

失われてしまったいくつもの可能性と、
もう戻ってくることのない時間。

村上春樹の新作、
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は、
自らの人生をつかみ直そうとする男の物語である。

主人公・多崎つくるには、高校時代、親密な友だちがいた。

自然発生的にできあがった5人のグループ。

つくる以外の仲間の姓にはそれぞれ、
「赤」「青」「白」「黒」という文字があり、
つくるだけが「色」と無縁であることに疎外感を感じている。

一人だけ故郷を離れて東京の大学に入ったつくるは、
突然に仲間から絶交を言い渡されてしまう。

36歳のつくるは、鉄道会社の駅舎設計をするエンジニア。

不条理ともいえる友からの拒絶は、
つくるの心に未だダメージを残していた。

過去と正面から向き合わなくてはいけない。

そう決心したつくるは、
16年前の拒絶の「理由」を探し求め始める。

人の心と心は調和だけで結びついているのではない。

それはむしろ傷と傷によって、痛みと痛みによって、
そして脆さと脆さで耐えがたく繋がっている。

心の奥の深く暗い部分にためこんだ喪失感や孤絶感は、
リストの「巡礼の年」の調べに乗せて、
我々に乗り越えるべき何かを静謐に導き出す。

人は自分のそのよるべなさを直視しない。

だが、自分の人生から逃げ出すことは出来ないのだ。

過去の傷を直視し、人生を取り戻そうとすること。

多崎つくるは貴方であり、私なのだ。

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by tsunaguNPO | 2013-04-14 15:06 | こまいズム