非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎

アウトサイダー・アートの世界にあって、
ヘンリー・ダーガーはスーパースターである。

ジェシカ・ユーの「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」は、
孤独なパラレルワールドに生きた男を追ったドキュメンタリーだ。

1973年、シカゴ。

身寄りの無い独り身の老人が他界し、
はじめてその作品群が家主によって発見された。

おそらく世界最長となる15,000頁を超える小説と、
多くが3m以上もある数百枚の絵。

周囲の人々が貧しい普通の老人にしか見えなかったと、
口々に語るその男は、“非現実の王国”と名付けられた、
自分だけの小さな別世界に生きていたのだった。

子どもを奴隷にする残虐な大人たち、
グランデリニア軍との死闘を繰り広げる七人の少女戦士、
ヴィヴィアン・ガールズの天真爛漫と残酷邪悪が並置する物語。

その異形の物語はどのようにして産み出されたのか。

芸術は創るものと鑑賞するものとの共犯で成り立つ。

あくまでも自分の精神世界を記述したヘンリー・ダーガーは、
言ってみれば本当の意味での芸術家ではないのだろう。

天涯孤独だったダーガーは、おそらく女性の身体を見たことがなく、
物語に登場する全裸の少女たちには一様にペニスが書かれている。

19歳から73歳で死ぬ直前まで50年以上に渡り創作された、
「自身の物語」は、彼の人生を再構築する試みだった。

人生は一冊の書物に似ている。

無為に自分の人生を送っているであろう我々に、
ダーガーは生き方の一つの形を呈示する。

他者から見れば哀れな人物だったかもしれないが、
ダーガーは自分の物語を創造することで、
自分の人生を念入りに、そして熱心に読み込んだのだ。 

ダーガーは自分の人生を、ただ一度しか、
それを読むことが出来ないことを知っていたのである。

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by tsunaguNPO | 2013-04-22 17:41 | こまいズム