カテゴリ:こまいズム( 259 )

畏怖すること

山梨県は海がない。

初めて海を見たのは小学3年生のころだ。

家族旅行で静岡の海水浴場に行った時だった。

海は青く、波は遠くで
うねりを見せてから海岸線に打ち寄せる。

はるか彼方に水平線があるが、
その先も海なのだ。ずっと海なのだ。

怖いと思った。

それは恐怖というより、太古の人々が、
自然を畏怖したのと同じ感覚だったのかもしれない。

我々は自分自身が生きている環境を何も知らない。

自然は、知ったかぶりに「想定」などしても、
簡単に覆されることは東日本大震災と原発事故が証明している。

自然をむやみに恐怖することはないが、
畏怖の心は必要なのだ。

我々がほんとうに恐れなければいけないことは、
何なのだろう。

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by TsunaguNPO | 2012-07-10 11:09 | こまいズム

わたしの物語

世界について知れば知るほど、世界はますます捉えがたい、
ますます混乱させられる場になっていくと信じているのは、
自分一人ではないことを私は知った。

ポール・オースターが、
ナショナル・ストーリー・プロジェクト』を始めたのは、
1999年のことである。

直訳すれば「国民の物語事業」とでも言うべきか。

人々がひっそりと抱える「作り話のように聞こえる実話」、
「紙に書きつけたいという気になるほど大切に思えた体験」を募れば、
1年でアメリカ中から4000通も集まり、ほどなく出版された。

ある心臓外科医は、70代の男に難手術を施した。

3日後に心停止。2時間後に何とか蘇生したものの、
奇妙なことが起きた。

男は20年余の記憶を失い、自分を50歳と思い込んでいた。

のちに外科医は知る。

男は酒乱で妻に暴力を振るっていたが、
記憶を失ってからは酒も飲まず、愛情深い夫として、
静かに人生を閉じた。

大学生時代、こんなことがあった。

徹夜で試験勉強をしていて、
いつのまにか寝てしまった。

電話が突然鳴った。

「もしもし」と女性の声。「どなたですか?」
「すいません間違いました」と静かに電話が切れた。

時計を見たら、試験開始30分前だった。

その電話のおかげで遅刻もせずに、落第も逃れた。

誰にでも、誰かに伝えたくなるような大切な話がある。

そこかしこで「わたしの物語」が読み手を待っている。

そして、その物語を紡げるのは、
他でもない、あなたなのだ。




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by TsunaguNPO | 2012-07-06 14:37 | こまいズム

道~白磁の人~

歩いた道の、その先に。

高橋伴明の「道~白磁の人~」は、
民族を越える 熱い友情を描く、史実に基づくドラマだ。

日韓併合から4年後の1914年。

朝鮮総督府の林業試験場で働くことになった、
23歳の浅川巧は、京城に渡る。

そこで出合った朝鮮の工芸品・白磁の美しさに強く惹かれる。

職場では同僚のチョンリムから朝鮮語を習い始め、
研究に没頭する日々が続く。

チョンリムとも友情を育んでいくが、その一方で巧は、
朝鮮の地で横暴に振る舞う日本人の現実を知る。

葬送と再生の物語である。

白磁は浅川巧の人間性を表すメタファーであり、
林業家と家庭人としての姿に焦点が当てられる。

ペ・スビンが演じるチョンリムの造形が素晴らしい。

ほとんどの日本人が朝鮮人を蔑視する中、
巧は分け隔てることなく接しチョンリムと友情をはぐくむ。

巧に惹かれるチョンリムだが、
祖国を蹂躙した日本人との友情は儚い。

チョンリムが抗日運動による容疑で逮捕され、
自らが病魔に犯されても巧の心はぶれない。

巧の最初の妻、チョンリムの親友、そして巧本人の葬送が、
それぞれの人物の決意の行方を、静謐に帰結させ、
残された人々の再生を予感させるのだ。

民族を越えて人と人は契りを結ぶことが出来たのか。

我々は浅川巧の歩いた道の、その先をまだ知らない。




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by tsunaguNPO | 2012-06-23 13:18 | こまいズム

J・エドガー

誰よりも恐れられ、誰よりも崇められた男。

クリント・イーストウッドの「J・エドガー」は、
1924年、FBIの前身である捜査局BOIの長官に任命され、
35年にFBIへと改名した後も、72年に他界するまで、
長官として在任した権力者の半生を描く叙事詩だ。

エドガー・フーバーFBI長官はクーリッジからニクソンまで、
8代の大統領の元で捜査機関トップの座を50年に渡り守り続けた。

ケネディをはじめ、フーバーを更迭しようと考えた大統領もいたが、
結局は誰も実行できなかった。フーバーは密かに著名人の醜聞を収集し、
それを使って大統領を脅していたとさえ言われる。

大統領をも恐れさせた、アメリカ最大の権力者だった。

クリント・イーストウッドが描くフーバーは、
アメリカ史の闇を握る怪人などではない。

彼は必死に自分を保とうと苦闘する弱い男だ。

司法省捜査局(FBIの前身)に入局すると、
いち早く科学捜査の重要性を認識し、
リンドバーグ子息誘拐事件で名をあげる。

功名を追い求めるフーバーは、
ギャングやマフィアが逮捕されるたびに、
FBIが果たした役割を喧伝した。

マスコミに率先して協力し、
清廉潔白で悪を退治するFBIのイメージを作っていく。

イメージによって権力をつかんだフーバーは、
みずからのイメージにもことさらに気をくばった。

心の中で渦巻いている感情も、
背広とネクタイに封じ込めて決して表には出さない。

その思いは、副長官クライド・トルソンが入局してきたときからはじまる。
フーバーはトルソンにホモセクシャルの愛情を抱いてしまうのだ。

それは他人には、自分にさえも決して認められない愛である。

フーバーはホモセクシャルであることを隠しながら、
トルソンと一緒に食事をとり、休日には2人で競馬を楽しみ、
40年以上にわたって秘やかな交情を続けるのだ。

これは秘やかな愛のドラマである。

2人の出会いと別れは慎みぶかく、
ハンカチの受け渡しで表現される。

イーストウッドは現代では難しい大時代なメロドラマを語ってみせる。

2人は最後まで手を握りあうことすらできなかった。

この報われぬラブストーリーで、
アメリカ最大の権力者は実は敗者として描かれるのだ。

現実世界で、強面の裏に焦りと弱さを覗かせる権力者の姿を、
我々はこれからも目撃し続けなければならないだろう。

しかしそこには、静謐な美しい激情は存在しないのである。




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by TsunaguNPO | 2012-06-03 21:10 | こまいズム

新しい人生のはじめかた

人生の曲がり角の先。

ジョエル・ホプキンスの、
新しい人生のはじめかた」は、
ダスティン・ホフマン主演のハートフルな恋愛ドラマだ。

バツイチのCM作曲家ハーベイは娘の結婚式のため、
ニューヨークから遠路はるばるロンドンに来る。

しかし娘からはバージンロードを歩くことを断られ、
トラブルで仕事はクビになるなど散々な目に遭う。

そんな中、ハーベイは空港のバーで一人で飲んでいた、
統計局に勤める中年女性ケイトと出会う。

大人の恋は、分別があるだけに、
最初の一歩に勇気が必要だ。

人生の折り返し地点を過ぎた、
中高年男女の少し臆病な恋物語である。

エマ・トンプソン演じるケイトのキャラクターが切ない。

大勢の輪に入れず楽しい雰囲気にもなじめずに
孤立してしまうのは、新しい出会いで自身が傷つくのが怖いからだ。

恋や夢を諦めてしまうこと。

その方が生きるには楽だからだと言う彼女は、
本当は新しい生き方を望んでいながら、チャレンジする勇気がない。

一歩踏み出すこと。

その勇気があれば幾つになっても、
人は夢を見ることが叶い、新しい恋を始められるのだ。




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by TsunaguNPO | 2012-05-10 11:02 | こまいズム

監督失格

凄絶な愛と死の記録。

平野勝之の「監督失格」は、
200本以上のAV作品に出演しながらも、
2005年に34歳で急逝した女優・林由美香を題材とした、
魂のドキュメンタリーである。

林の元恋人でドキュメンタリー「由美香」も手がけた、
平野勝之が、林とかかわった約15年間にわたる記録と、
林の死後に新たに撮影した映像で構成されている。

打ちのめされるという言葉では足りない。

観る者さえも正気を失うセルフドキュメンタリーだ。

起きてしまった偶然はあまりにも劇的で、
生々しく残酷なビデオ映像の中で、なりふり構わず、
自己をさらけ出す表現者の喪失と苦悶の凄まじさは、
観客が安全地帯にとどまることを許さず、当事者へと変える。

林由美香に「監督失格だね」となじられた平野は、
過去にけりを付け、悲壮を反転させて、
自作を乗り越える闘いに挑む。

自己完結することなく観客に突き刺さる映像。

偶発的な映像による愛と悲しみの累積が、
フィクションには到達し得ない境地へいざなう。

どん底から這い上がる生の煌めきは、
生半可な死生観など粉々に破壊するのである。




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by TsunaguNPO | 2012-04-20 13:16 | こまいズム

吉本隆明は静かに去る

意外だが、吉本隆明は太宰治に会っている。

太宰の戯曲を、自分たちで上演しようということになり、
三鷹の家まで断りに行った話をインタビュー記事で読んだ。

太宰は留守で、駅近くの飲み屋にいた。

意を決して、わけを話すと、
「飲め」と酒を注いでくれた。

「断りなんていらない。
 そんなもの勝手にやっちゃえばいいんだよ」

太宰は吉本にそう言ったという。

吉本隆明の戦後は太宰との出逢いから始まった。

そんな戦後の思想界に、
大きな影響を与えた吉本隆明が死んだ。

60年代の安保闘争や全共闘運動の「教祖」的存在であったことは、
モラトリアムを過ごしていた学生時代に遅ればせながら知った。

有名な「共同幻想論」は、従来の左翼運動から脱却を図る、
新左翼運動の理論的支柱となり、大学紛争の嵐が吹いた60年代末、
同書を手にした学生が多かったという。

20年遅れて、学生時代に自分も読んでみた。

何が何だか解らなかったが、時代が彼にそれを書かせ、
多くの若者たちがその空気を体感したのだけは理解した。

難解な思想書が幅広い層を引きつけたのは、
豊かな文学性や詩的な感性に裏打ちされた批評眼、
それに常に「今の時代」と向き合い、格闘したところにあった。

近年は人気アニメなどサブカルチャーにまで独自の論評を試みた。

敗戦時、吉本隆明は20歳だった。

「国破れた」喪失感から出発した思想家の往生は、
一つの時代の終わりといえるのだろう。

そして、我々はまだ吉本の問いかけに答えが出せてはいない。




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by TsunaguNPO | 2012-03-17 14:27 | こまいズム

ヒア アフター

生きていくために必要な希望の物語。

クリント・イーストウッドの「ヒア アフター」は、
死後の世界にとらわれてしまった、それぞれの今を生きる、
登場人物の苦悩と解放を描いたヒューマン・ドラマだ。

フランス人ジャーナリストのマリー、
東南アジアで津波に飲み込まれ、
呼吸が停止した時に不思議な光景を見る。

サンフランシスコでかつて霊能力者として暮らしていたジョージ、
今では工場に勤め、ひっそりと過去を絶って暮らしている。

ロンドンで暮らす少年マーカス、
突然の交通事故で双児の兄を失ってしまう。

兄を思うマーカスは、霊能力者を捜すうち、
ジョージのWebサイトに行き着く。

一方、マリーは臨死体験を扱った本を書き上げ、
やがて異なる3人の人生が交錯する日が来る。

紺やグレーや茶色が、実にきめ細かく使い分けられて、
ミニマムなどれも地味な色調が映画全体に張りめぐらされる。

それは、現在を生きる我々の彼岸の風景だ。

3人は三者三様の形で「死との隣接」を実感している。

だが彼らは「向こう側」へ、
荒々しく踏み込んでいくわけではない。
超常現象を通じて霊界と派手に交流するわけでもない。

クリント・イーストウッドは一歩まちがえば、
おどろおどろしく感傷の泥沼に溺れそうな話に、
しんと静まったような抑制された絵づくりで、
求心力と説得力をもたらす。

人は自分と向き合い、誰かの言葉に耳を傾け、
自分の人生を見つめ直すことが必要なのだ。

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by TsunaguNPO | 2012-02-28 00:07 | こまいズム

つなぐ式地域資源活用事例

三年目を迎えた日の出町商工会の「まちあるき観光事業」支援。

甲府市新庁舎建設地の借囲いへの地域資源サイン設置に続き、
ガイドブック・コンテンツのサイン化を行いました。

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日の出町は昔から木材の産地として知られていました。
筐体には多摩産材を使用し、地元の工務店で造作。

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まちあるきにも便利なカラー版のトイレマップも掲出されています。

実はこのサイン、リバーシブルになっていて、
季節によって掲出内容を変更できるスグレモノ。

ガイドブックの活用方法はたくさんあるんですよ。

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by TsunaguNPO | 2012-02-17 13:52 | こまいズム

見知らぬ子どもたち

1991年、広島新交通システム建設現場で、
鋼鉄製の橋桁を据え付ける作業中に、
橋桁が10m下の道路に落下する事故が発生した。

橋桁の落下の直撃を受けた乗用車の中には、
橋桁の重量により高さ50cmまで圧縮されたものもあり、
また火災が発生し炎に包まれたものもあった。

事故のおよそ2時間後に橋桁がクレーンで取り除かれ、
下敷きとなった乗用車から被害者らは救出されたが、
9人の死者は全員がほぼ即死の状態であった。

ギリギリ事故に巻き込まれなかった幼稚園のバスがあった。

直前に園児の一人が「オシッコに行きたい」と言いだし、
一瞬バスが止まったからだそうである。

後日、TV局がその子を取材しようとしたら、
不思議なことにその子の名前も顔も誰も思い出せなかった。

東日本大震災の際、津波警報が出て住民が、
町内で一番高いところにある神社目指して避難していく途中、
見知らぬ女の子が、前から町内をうろついていた野良猫を、
数匹抱えて走るのを複数の人が目撃している。

地域のつながりの密接なところで「見知らぬ子ども」というのが、
そもそも不思議な話なのだそうだ。

大きな災害時に現れる見知らぬ子どもたちとは何なのか。

それは人間にバチを当てようとする『大きな神様』の意に逆らい、
ちょっと人間を助けようとする『小さな神様』の仕業かもしれない。


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by TsunaguNPO | 2012-02-14 14:22 | こまいズム