森に眠る魚
私が築きあげた
愛しい日々は、もう
戻らないのだろうか。
角田光代の「森に眠る魚」は、
凄みのある筆致であぶりだした、
母親たちの深い孤独と痛みを描いた母子小説だ。
東京の文教地区の町で出会った5人の母親。
育児を通してしだいに心を許しあうが、
いつしかその関係性は変容していた。
あの人たちと離れればいい。
なぜ私を置いてゆくの。
そうだ、終わらせなきゃ。
心の声は幾重にもせめぎあい、
壊れた日々の亀裂へと追いつめられてゆく。
怖い物語である。
平成11年に文京区で起きた、
いわゆる「お受験殺人」がモデルになっている。
ああ、よくある話だ、と思う人もいるだろう。
しかし、角田光代が告げるのは、
「よくある話」などこの世界にひとつもない、という真実だ。
5人の女は、深い森の中へさまよい込んでいく。
それまでいた場所の明るさがあり、森の暗さや不気味さがなお際だつ。
そして何よりも恐ろしいのが、
気がつくと誰しもがその森を歩いているという事実なのだ。
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by tsunagunpo | 2009-12-01 22:20 | こまいズム