仮想儀礼(上・下)
この国には、「救われたい」人間が多すぎる。
篠田節子の「仮想儀礼」(上・下)は、
新興宗教の内面を描いた黙示録的長篇サスペンスだ。
男二人が金儲けのために始めたネット宗教。
しかし、信者の抱える闇は、
ビジネスの範疇を超えていた。
家族から無視され続けた主婦、
愛人としてホテルで飼われていた少女、
実の父と兄から性的虐待を受ける女性。
居場所を失った女たちが集う教団は、
次第に狂気に蝕まれてゆく。
主人公は自分で作り出した虚構に、
自分自身がのみ込まれていく。
何が恐ろしいかというと、
主人公が先鋭化しカルト教団となっていく、
インチキ宗教の教祖として日常性や、常識性を忘れないことだ。
信者と一緒に彼岸に渡ることもかなわず、
普通の男として主人公は責任を取ろうとする。
特定の思想や主義主張、教義をもって、
人を変え、社会を変えることで、
人を救おうとするのが宗教である。
だがそれを作り出したのも、
救われるのも、生身の人間なのだ。
各人が思考停止状態に陥れば悲劇は起きるのである。
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by tsunagunpo | 2009-12-22 18:22 | こまいズム