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女のいない男たち

ある日突然、あなたは女のいない男たちになる。
どこまでも冷ややかな複数形で。

村上春樹の新作短編集「女のいない男たち」は、
喪失という人生の破局が綴られた恐ろしい連作だ。

この短編集の白眉は、冒頭に載せられた、
「ドライブ・マイ・カー」である。

妻と死別した俳優が、
妻と不倫関係にあった同業の俳優と奇妙な友情を結ぶ。

俳優は故人の思い出を語らいつつ、
ひそかな報復を企んでいる。

その告白を聞いているのは北海道出身の、
とある事情で俳優の運転手に雇われた無口な女性である。

「奥さんはその人に、心なんて惹かれていなかったんじゃないですか」

「だから寝たんです」

「女の人にはそういうところがあるんです」

彼女の言葉に俳優は落ち着いた心を取り戻したかのようだ。

淀みなく自然な彼女のギアチェンジのように、
俳優は新しい人生にシフトしていけるのだろうか。

一時の安息を手に入れても喪失はそこに横たわったままだ。

この短編集の主人公たちは、
いずれも女性との「正しい」関係を結ぶことに失敗し、
相手を失った男たちばかりである。

人はいつか大切な人を失ってしまう。

どんな失いかたをしても、いつか人は癒やされるのか。

村上春樹は「そうではないのだ」と呪詛のように物語を共振させる。

我々の人生は個であったとしても、
それはある瞬間にあっけなく全の中に回収されてしまうのだ。

それでも我々は生きたいと思わなければいけない。

人は、いつか必ず死ぬということを思い知らなければ、
生きているということを実感することもできないのだから。


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by TsunaguNPO | 2014-06-02 18:03 | こまいズム